2022年5月26日に開催されました社員総会における推薦を受け、本コンソーシアムの6代目の理事長に就任しました、理化学研究所計算科学研究センターの富田浩文です。今後2年間、本コンソーシアムの発展に尽力して参りたいと思っております。どうぞよろしくお願い致します。
HPCI (High Performance Computing Infrastructure:革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ)コンソーシアムは、「京」コンピュータの製造に当たり寄せられた各種ご意見がきっかけとなり、フラッグシップ計算機「京」を中核とし、様々なユーザからのニーズに応える計算環境を構築すると共に、これを円滑かつ有効活用するユーザコミュニティとシステム提供機関との連携を主目的として誕生しました。ユーザとシステムの両サイドのコミュニティはHPCを推進する両輪であり、両者の連携が密に行われてこそ、計算科学・計算工学及び高性能計算のための計算機科学の研究が発展します。これを具現化する枠組みがHPCIコンソーシアムであり、2012年4月の創設以来、我が国の高性能計算技術とその応用を基本から支える重要な役割を果たしてきました。また、HPCIコンソーシアムの下で、「京」や「富岳」のようなナショナル・フラッグシップ・システムだけでなく、主な国立大学法人・国立研究開発法人が運用するスーパーコンピュータ群、いわゆる「第二階層」と呼ばれるシステム群運用機関も、当コンソーシアムの一員としてユーザニーズを支える重要なリソースを提供しています。
「京」コンピュータは、2019年8月をもってその運用期間を終了しました。そして、2021年度よりスーパーコンピュータ「富岳」が新たなナショナル・フラッグシップ・システムとして公式に運用開始されています。「富岳」は2020年6月にTOP500リストでその圧倒的な性能によって世界第一位にランクされ、現在は多くのユーザにより日に日に顕著な成果が創出されているところです。一方で「京」と「富岳」のはざまとなる機関では、第二階層のスーパーコンピュータ群がユーザニーズを支え、HPCI全体として計算資源は枯渇することなく順調に供給されてきました。また、あまり目立ちませんが、ユーザが簡単なシングル・サインオン・システムによってあらゆるスーパーコンピュータへのアクセスと一元化できるようにし、更にそれらの間で大規模共有ファイル・システムが簡単に利用可能してきたことも、わが国のHPCIを使った成果を更に加速することでしょう。
2020年度には、世界は新型コロナウイルス感染症という大変な局面を迎え、未だ完全な終息には至っていません。この世界的大問題に対し、HPCIではこれを最重要課題の一つと捉え、「富岳」を含む第二階層群のシステムリソースを関連する重要な研究に対し、いち早く計算資源を適切に割り当て多くの研究成果が社会還元されてきています。従来からの通常の課題募集・採択・実行というフェーズだけでなく、時として臨機応変な対応により、世界的緊急課題に対しても迅速に対応する体制の有効性を示すこととなりました。
また、2022年6月には文部科学省に対し、提言書「「富岳」本格運用時のHPCIおよび次期フラッグシップ計算機の在り方について」を手交させて頂き、HPCIシステムを支えるハードウェア・ソフトウェア・運用体制等、我が国のHPC基盤のさらなる発展のための我々の考えを提言としてまとめさせて頂きました。このような活動は、当コンソーシアム創設以来、宇川彰・藤井孝蔵・中島浩・加藤千幸・朴泰祐の各理事長を始め、数多くの社員と参画機関及びユーザコミュニティ、そして文部科学省の強い連携の下で進められてきました。
2022年夏からは、次世代フラッグシップ・システムへ向けた調査研究がスタートします。前回の「富岳」開発時には、システム側とアプリケーション側の協調設計が開発の一つの潮流として作られました。データ駆動科学の台頭をはじめHPCIのすそ野は加速度的に広がってきており、今後、協調設計はますます重要な課題となるでしょう。上記の調査研究及び数年後着手されるであろう開発過程を含め、HPCIコンソーシアムとしては、その動向を注視しながら、ユーザーコミュニティの代表の一つとして適切な助言を行っていく所存です。
2022年4月1日現在、HPCIコンソーシアムは社員43名(うちユーザコミュニティ代表24名、システム構成機関代表19名)及びアソシエイト会員15名の合計58名からなる過去最大数のメンバーを有し、順調に発展してきています。今後、ますます重要となる計算科学・計算工学の研究ニーズに応え、同分野の研究力と産業応用力を支える重要な柱として当コンソーシアムの活動を推進して参りたいと思います。皆様のご協力をよろしくお願い致します。