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一般社団法人 HPCIコンソーシアム
ユーザー視点のインフラ構築を目指して
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HPCI構成機関をはじめ関連組織と力を合わせて
計算科学振興に欠かせない人材育成に取り組む

スーパーコンピューティング技術産業応用協議会の活動内容

▲ HPCIコンソーシアムの人材育成ページ
https://www.hpci-c.jp/hrdevelop/

 HPCIコンソーシアムでは、今年(2018年)の春から人材育成に関する情報を集約するポータルサイトの運営を開始し、HPCI構成機関をはじめ計算科学関連組織が実施する教育・人材育成イベントの情報や教材を集約してホームページ上で紹介します。今回は、HPCIコンソーシアムで人材育成を担当する佐藤三久さんに、人材育成の重要性、現在の取り組み、今後の課題などについてお話をうかがいました。

佐藤 三久
Mitsuhisa SATO
HPCIコンソーシアム 理事
理化学研究所 計算科学研究機構 プログラミング環境研究チーム チームリーダー
同 フラッグシップ2020プロジェクト アーキテクチャ開発チーム チームリーダー

佐藤三久様

人材育成に関わる人たちの連携体制を構築

──HPCIコンソーシアムは、計算科学分野の人材育成に関して、どのような役割を果たしていこうと考えていますか。

理化学研究所計算科学研究機構(AICS)「eラーニングアーカイブ」

▲ 理化学研究所計算科学研究機構(AICS)「eラーニングアーカイブ」
http://www.aics.riken.jp/jp/learnmore/e_learning
「理化学研究所計算科学研究機構(AICS)ホームページより」

佐藤(敬称略) この10年ほどの間に、「京」をはじめとして並列計算機は急速に発展し、超並列化が進んでいます。それ以前のように、普通のプログラムでも単にコンパイルすれば速くなるという時代ではありません。プログラム全体を書き換えて並列化しなければ、計算機の性能を活かすことができなくなっています。それは「京」だけでなく、研究機関や大学の情報基盤センターも同じで、大規模計算を行うユーザーは計算機に適したプログラム開発や最適化を行わなければ、効率的に利用することができません。情報基盤センターなどでは、超並列計算機を使いこなしてもらうために、若い人たちやこれからHPCを利用したいという人たちに向けて講習会やセミナー、イベントの実施に力を入れています。こうした状況のなかで、HPCIコンソーシアムとしては、計算リソースを提供しているHPCI構成機関で実施されている講習会などの情報を、より統合したかたちで会員のみなさんに提供していくことが必要と考え、人材育成に関する情報を集約したポータルサイトを運営することにしました。一方で、「京」の稼働に際して、2011年に「HPCI戦略プログラム」というプロジェクトが発足しましたが、その戦略5分野には、それぞれプログラム開発だけでなく、人材育成がミッションとして加えられていました。「HPCI戦略プログラム」そのものは2016年に終了していますが、そこで人材育成に関わっていた方々にご協力をいただき、人材育成タスクフォースを議論していくためのグループづくりなども進めています。各情報基盤センターで行われる講習会などは、どうしても各センターの計算システムの利用に関する内容が中心になりますが、このグループではもっと一般的な、例えば基本的なプログラミングの方法であるとか、典型的なアプリケーションに共通する内容、言い換えれば各センターだけに閉じない幅広い情報を提供してもらうための提案をしていきたいと考えています。こうした活動を通して、今後は情報基盤センター同士の連携や、人材育成に関わる現場の人たちの連携体制を構築していきたいと思っています。まだ活動は始まったばかりですが。また、連携の一例としては、理化学研究所計算科学研究機構(AICS)がホームページで「eラーニングアーカイブ」サイトを運営していまして、AICSやかつての戦略分野で実施した講習会やシンポジウムの講義内容の動画や資料などのコンテンツを掲載していますが、これと連携してHPCI構成機関が行う講習会などを撮影して動画で見られるようにアップするといったこともやっていこうとしています。

────人材育成といっても、HPCIコンソーシアムが直接講習会などを行うということではないのですね。

佐藤 講習会の主催者は、HPCI構成機関などになりますが、そうしたイベントを一覧して広報できるようなチャンネルとして、HPCIコンソーシアムの枠組みを有効に活用していきたいと考えています。HPCIコンソーシアムの役割は、計算科学コミュニティをオーガナイズして、まとまった力にしていくことですから、人材育成においても、コンソーシアムが直接講習会を行うということではなく、構成機関の活動を集約して多くの人たちに紹介したり、個々の活動を計算科学の振興にとってより意義のあるものに高めていくための情報提供を行っていくことが、重要なミッションであると考えています。

ユーザーの裾野を広げていくことが重要

──佐藤さんは昨年から人材育成を担当されているとお聞きましたが、人材育成を推進していくための現在の課題は何ですか。

佐藤 専従のスタッフがいるわけではないので、日々のさまざまな業務のなかで定常的に進めていくことが難しいということはありますね。ある意味ボランティアベースでご協力いただける方たちを組織化するなど、運営の仕方を工夫していくことも、今後は必要ではないかと考えています。計算科学コミュニティ全体からすれば、AICSや高度情報科学技術研究機構(RIST)などが中核となって、オールジャパンの人材育成に取り組む体制を構築していくことが重要と考えていますが、そうしたことも今後の課題といえます。

──それだけ計算科学コミュニティにとって人材育成は重要な課題ということでしょうか。

佐藤 「京」にしても、現在開発が進められているポスト「京」にしても、高額な資金が投入されています。その資金は国民が支払う税金です。ですから、そうしたHPCを使用して最先端の科学成果を生み出すことも重要ですが、一方でより多くの幅広い分野で有効活用していくことも非常に重要です。そのためには、ユーザーの裾野を広げていかなければなりません。その裾野の1つが大学の情報基盤センターにあるHPCであり、「京」とともにこうしたHPCを多くの人たちに活用していただき、研究成果を出したり、産業界のものづくりなどに役立ててもらうことが求められています。それを実現するには、HPCを利用できる人たちを増やしていくことが欠かせません。特に大事なのは若手の育成です。大学でHPCの使い方を習得した学生が企業に入れば、HPCを積極的に仕事に活かそうという話も出てきます。一部の企業では、「京」をはじめHPCが業務に活用されていますが、まだまだ企業の利用は進んでいません。もっともっとユーザーの裾野を広げていくことが必要です。それはHPC開発技術の向上にとっても大切です。そのための基盤的な話として、人材育成が非常に重要な課題になっているわけです。

計算科学リテラシーを広めることでHPC利用の裾野を拡大

──裾野を広げるというお話が出ましたが、今日、パソコンやインターネットは私たちの暮らしに欠かせないものになっています。しかし、HPCというと急にハードルが高くなり、産業界でもなかなか手を出しにくい存在なのではないでしょうか。

佐藤三久様

佐藤 研究分野でも産業界でも、今や計算機の利用はごく当たり前のことになっています。ただ、これまでパソコンでやっていたことを、どのようにHPCの利用につなげていけばよいのかが見通せないというケースは、確かに多いようです。そこがスムーズにつながれば、HPC利用の裾野はもっと広がるはずです。そのために、みなさんに知っていただきたいのは、最初にお話ししたことと矛盾しますが、何もHPCを利用するために、みんながみんな並列プログラムのつくり方を習得しなければいけないわけではないということです。例えば、HPCを使って大規模計算を行う研究者たち全員が、自分で超並列プログラムを書いているかというと、決してそうではありません。自分のプログラムで大規模シミュレーションがやりたいというだけでなく、すでにあるアプリケーションのユーザーとしてHPCを利用したい、今までパソコンでやっていた計算をもっと大規模化したいからHPCを利用したいという人もたくさんいるわけです。各情報基盤センターでは、そういった人たちもHPCユーザーとしてとらえて、ユーザーを拡大していくためのサポートシステムやセミナーなどを実施し、より多くのユーザーにHPCを利用してもらうことを考えています。人材育成においても、単に超並列プログラムの書き方を指導することに限らず、計算科学リテラシー、あるいはHPCリテラシーとでもいいますか、そうしたレベルでHPCの重要性を社会に浸透させていくことが必要だと考えています。そうすれば、もっとHPCが身近になり、HPCを利用したいという人が増えて、計算ニーズも高まるはずです。

──今や学校教育においてもICTリテラシーを学ぶ時代ですから、HPCについて学ぶ機会がもっと増えてもいいはずですね。

佐藤 何も並列プログラムが書けるようにしようとはいいませんが、インターネットセキュリティについて学ぶのと同じようなレベルで、高校や大学などの教育現場で、計算機を使ってデータを解析したり、計算機を使って科学研究を行うことの意義やその方法について教えることは大切だと感じています。私たちも人材育成の入り口として、例えば高校生にHPCを体験してもらう機会をつくるといった試みにも取り組んでいきたいと考えています。すでに計算科学リテラシーについてのカリキュラムを共通科目に加える大学・大学院も出てきています。こうした話は、人材育成というより教育そのものに関わってきますから、情報基盤センターだけでなく、大学そのものがミッションとして取り組むべきことですが、基本的なカリキュラムのなかにHPCの使い方やシミュレーションのやり方を取り入れてもらうことは重要なことです。その意味で、計算科学分野の人材育成を視野に入れた意見交換やコミュニティづくりを大学と進めていくことも、今後は必要だと思います。また、政府は「人づくり革命・生産性革命」を推進していますが、こうしたことに関連して、大学が連携して計算科学リテラシーを進めていくような話が出せれば、もっと盛り上がっていくのではないかと思います。HPCIコンソーシアムとしても、機会があれば、計算科学分野の人材育成のための政府のファンディングに関して、大学をはじめ人材育成に関わる人たちを、オールジャパンでオーガナイズして意見を取りまとめ、提言のようなかたちで提案していきたいですね。予算がつけば、状況は大きく進展するはずです。もちろん、今すぐに実現する話ではありませんが。

息の長い取り組みが大切

──これまでお話をうかがってきて、HPCIコンソーシアムが推進する人材教育の重要なポイントは、さまざまな機関で個別に行われてきた取り組みをオーガナイズすることで、より大きな力を生み出していくことのように感じました。

佐藤 HPCの利用を拡大していくためには、その重要性を多くの人々に認知していただき、ユーザーとして活用できる人材のポテンシャルを増やしていかなければなりません。そのためにも、情報基盤センター同士の橋渡しや、人をつなぐということが必要だと思っています。今回私たちが構築するポータルサイトを足掛かりにして、人材育成のコミュニティや人間的なネットワークをつくり上げることによって、みなさんの声を大きな力にしていけると考えています。また、はじめに述べたように、かつてのHPCI戦略プログラムで人材育成に関わっていた方々は、ポスト「京」に向けた重点課題のプログラムに残っているケースが多いので、そうした人たちを核にして、人材育成をキーワードにしたグループをつくり、情報発信していくこともこれから進めていこうとしています。ポータルサイトの運用を進めながら、人材育成担当者のメーリングリストを充実させたり、テレビ会議などで状況を報告し合うようなこともできると思っています。さらに、もっとみんなで議論するべきだという話になれば、シンポジウムを開催するといったこともあるかもしれません。

──今後の活動のなかで、最も大切なことは何ですか。

佐藤 人材育成や教育は農業と同じだと、私は思っています。種がよくても畑がよくなければ作物は育ちませんし、天候も大きく関わってきます。人材教育でも、才能ある人材を育てていくためには、そのための環境が重要です。さらに、作物が実るまでには時間が必要なのと同様に、人材育成も成果が現れるまでには時間がかかりますので、息の長い取り組みが必要だと考えています。