スーパーコンピュータは日本で具体的な成果をあげ続けています。
その象徴的な例は、スーパーコンピュータの世界でもっとも権威があると言われるゴードン・ベル賞※を日本の機関が、多数受賞したりファイナリストに選ばれたことでしょう。
理研R-CCSの研究活動に対する受賞実績はこちらです。
米国計算機学会(ACM) が、毎年ハードウェアとアプリケーションの開発において最高の成果をあげた論文に付与する賞。
毎年11月に開催される米国スーパーコンピュータ会議にて表彰式が行われる。このうち実行性能部門の最高性能賞は最も栄誉ある賞とされている。
【背景】
2020年に世界中で急速に感染拡大した新型コロナウイルス(COVID-19)は、パンデミックから2年が経とうとしている現在も次々と変異株を生み出し、世界中で猛威を振るっている。この未知のウイルスはどのような経路から人に感染し、広がっていくのか?特に感染初期には様々な情報が錯そうする中、我々はマスコミからのニュースと、行政機関から発せられる方針を頼りに行動するしかなかった。日本ではダイヤモンドプリンセス号における集団感染を始めとして、スポーツジムや屋形船、雪まつり会場での仮設テント内といった感染拡大初期のクラスター発生事案を精査した結果、世界に先駆けて感染経路として飛沫感染、特に近距離での飛沫核感染のリスクと換気の重要性が認識されていた。このような状況の中、理化学研究所は文部科学省と連携し、2021年の供用利用に先駆けて2021年4月に、新型コロナウイルスの対策に貢献する研究開発にスーパーコンピュータ「富岳」の計算資源を供出することを決定した。我々のチームはこのプロジェクトに応募し、2020年4月よりスーパーコンピュータ「富岳」を活用した飛沫・エアロゾルの飛散シミュレーションを行い、感染リスク低減策の提案を行ってきた。
【富岳による成果】
理研で開発を進めている階層直交格子データ構造に基づく複雑現象統一的解法フレームワークCUBEに実装されていた自動車エンジン内の液滴噴霧蒸発モデルを用いて、オイラー的な気流解析とラグランジュ的な液滴解析を連成させた飛沫・エアロゾル連成を行った。「富岳」上で単体性能でピーク演算性能6.39%、並列性能で27,649ノードで4.90%のピーク性能(ウィークスケーリング91.07%)を有すると共に、工業製品にみられる複雑形状に対して、既存の非構造格子データ構造による流体解析と比較して数百倍にプリ処理(CADデータの修正とメッシュ作成)を加速することで、刻刻と変化する新型コロナの感染状況に応じて、的確なタイミングで必要とされる情報を社会に発信した。その数は活動開始から1年半で50以上の日常的な感染シーンに対して1,000を超えるテストケースに及び、特にパンデミック初期のわが国における飛沫・エアロゾル感染の科学的理解と、マスクやパーティション、換気の重要性といった感染対策に関する社会啓発に寄与した。
【今後の展開】
これまでのシミュレーションは、感染者から発生した飛沫・エアロゾルの室内への拡散と、健常者への到達量から感染リスクの評価を行ってきた。この際、飛沫に含まれるウイルス量については密度一定としていたが、実際には飛沫の発生場所に応じて含まれるウイルス密度も変化していることがわかってきている。また、健常者が取り込んだ飛沫やエアロゾルの気道内到達位置に基づくウイルス増殖の過程は、変異株により変化しているらしいことも推測されている。このようなより高精度な感染リスク評価を実現すると共に、感染メカニズム解明も視野に入れて、感染者の気道内での飛沫発生メカニズムと、健常者内でのウイルス増殖過程も組み込んだ統合的シミュレーションシステムの開発を、科学技術振興機構CRESTの支援で行っている。またこのシステムを活用して、「富岳」成果創出加速プログラムにおいて、ポストコロナ時代の新興感染症に対してもロバストな新たな室内環境設計に関する研究開発を、産学連携で進めている。
【概要】
筑波大学、京都大学、東京大学の研究グループによる宇宙大規模構造におけるニュートリノのシミュレーションがコンピュータシミュレーション分野での最高の賞であるゴードン・ベル賞のファイナリストに選ばれた。
【背景】
ニュートリノの質量を宇宙大規模構造の観測に基づいて推定するために、ニュートリノの力学的影響を考慮した宇宙大規模構造の数値シミュレーションが2000年以降に行われるようになってきた。
宇宙大規模構造の数値シミュレーションでは、従来からN体シミュレーションという手法が使われてきたがニュートリノのN体シミュレーションではシミュレーション結果に含まれるショットノイズが問題となっていた。
ショットノイズが問題となるN体シミュレーションに替わるシミュレーション手法として、6次元位相空間上におけるニュートリノの分布関数が従うブラソフ方程式を解くブラソフシミュレーションがあるが、必要なメモリ容量や計算コストが膨大であるため科学的に意味のある規模のブラソフシミュレーションはこれまでは不可能であった。
【富岳による成果】
富岳の世界最大規模の計算資源を用いて、世界で初めて宇宙大規模構造におけるニュートリノの運動をブラソフシミュレーションを用いて実行し、ショットノイズの無いシミュレーション結果を得ることに成功した。
富岳において最適化を行うことにより高い実効性能と並列化効率を達成し、中国のTianhe-2 スーパーコンピュータで行われた世界最大のニュートリノのN体シミュレーションと同じ規模の数値シミュレーションをはるかに優れた計算精度と約10倍の計算速度で実行することに成功した。
【今後の展開】
将来の大規模な銀河探査観測からニュートリノ質量やニュートリノの質量階層を評価するための理論的なモデルの構築が可能になる。
宇宙の磁気プラズマなどの他の分野へのブラソフシミュレーションの適用が期待される。
【概要】
国立環境研、理研、富士通、メトロ、東大の研究グループによる「3.5kmメッシュ全球気象シミュレーションを用いた1024メンバーアンサンブルデータ同化計算」が、ゴードン・ベル賞のファイナリストに選出。スーパーコンピュータ「富岳」を用いて史上最大規模の気象計算を実現した。
【背景】
気象災害から人命と財産を守るために、今よりも予測精度が高く、リードタイム(予測を行ってから実際に災害が起こるまでの猶予時間)をより長くとることが可能な気象シミュレーションが求められている。そのためには、シミュレーションの空間解像度の向上が必要不可欠。また近年、予測精度の向上に多大なる寄与をもたらしてきたデータ同化技術においても、アンサンブル手法を用いたデータ同化の有効性が示され、今よりも1桁以上多いアンサンブルサイズを用いことによる予測精度の向上も報告されている。
しかし、高解像度・大アンサンブルを同時に実現するためには計算機の能力が足らず、しかも計算速度だけでなくデータ入出力の速度を劇的に高速化する必要があった。
【富岳による成果】
3.5kmメッシュ(43億格子点)での気象シミュレーションを1024個行い、それらの結果と40万点の地球観測データを用いたデータ同化を世界で初めて実現した。また、これら一連の計算を実用的な時間(約4時間)内に行うことを可能とした(シミュレーション部分は29ペタフロップス、データ同化は79ペタフロップスでの計算)。
気象シミュレーションモデルとデータ同化ツールという二つのソフトウェアの結合計算を、富岳とのコデザインで高速化。二つのソフトウェアが1.3ペタバイトものデータを高速でやり取りすることを実現。
この計算の規模は世界の気象機関が日々天気予報のために行なっているアンサンブルデータ同化計算よりも500倍以上大きい。
【今後の展開】
・世界規模での気象災害の予測精度向上や要因解明に貢献。
・超大規模気象計算の実用的な高速化手法を示したことで、計算規模が年々大きくなっていく各国の気象予測に貢献することが期待される。
【概要】
スーパーコンピュータ「富岳」による大規模数値流体シミュレーションに関する研究がSC20のゴードン・ベル賞のファイナリストに選出されました。本研究は、東京大学、みずほ情報総研株式会社(当時)、理化学研究所 計算科学研究センター、および、一般財団法人 日本造船技術センターの共同研究の成果を論文にまとめたものであり、特に、「富岳」向けのアプリケーションの高速化の成果とそれが産業に与えるインパクトに関して言及したものです。
【背景】
スーパーコンピュータの性能向上によって、LES(Large Eddy Simulation)とよばれる計算方法による試験の完全な代替えに大きな期待が高まっています。しかし、LESは計算コストが高く、「京」を用いても2日間程度の時間が掛かっていたため、LESによる試験の代替えは実現されていません。
【富岳による成果】
3アプリケーションの最適化を進めた結果、計算時間を「京」の70分の1に短縮することに成功し、これまで2日間程度掛かっていた、船の水槽試験を模擬した計算を数時間で実施できる目途が得られました。この成果によって、数値シミュレーションによる試験の代替えに対して有望な見通しを得ることができました。
【今後の展開】
このようなシミュレーション技術は船の水槽試験だけではなく、自動車の風洞試験や流体機械の性能試験にも応用可能です。現在、「富岳」成果創出加速プログラムにおいて、その実現可能性を実証するための計算を実施しています。
図:「富岳」上のアプリケーションの性能(左図:横軸は計算コア数、縦軸は実効性能(左側の軸)と並列化効率(右側の軸)とシミュレーションの例(右図)。
【概要】
東大、理研、NVIDIA、ORNL、CSCSのチームによる以下の論文が、SC18においてコンピュータシミュレーション分野で最高の賞であるゴードン・ベル賞のファイナリストに選ばれました。
Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Takuma Yamaguchi, Akira Naruse, Jack C. Wells, Thomas C. Schulthess, Tjerk P. Straatsma, Christopher J. Zimmer, Maxime Martinasso, Kengo Nakajima, Muneo Hori, Lalith Maddegedara, A fast scalable implicit solver for nonlinear time-evolution earthquake city problem on low-ordered unstructured finite elements with artificial intelligence and transprecision computing, SC18 (https://doi.org/10.1109/SC.2018.00052).
【背景】
地震被害軽減を考える上で、被害想定の高度化が重要。稠密化が進む都市における構造物・地盤の一体モデルによる都市地震シミュレーションの実現が期待されている。
従来の都市地震シミュレーションに比べ、解析コストが膨大となることからその実現は難しいとされてきた。
【京による成果】
AIと物理シミュレーションを融合した手法を京上で開発することで、解析コストを大幅に軽減可能なことを示した。
京で開発した手法は、ORNLのSummitやCSCSのPiz Daintにおいても高い性能を実現できることが示された。
【今後の展開】
・地震被害軽減検討のため解析手法創出への貢献。
・構造物・地盤の一体モデルを拡張し、断層・地殻・都市を含む一体モデルによる地震シミュレーションの実現(富岳上で開発された手法は、HPCAsia2022においてBest Paper Awardを受賞(Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Kentaro Koyama, Ryota Kusakabe, Yuma Kikuchi, Takane Hori, Muneo Hori, Lalith Maddegedara, Noriyuki Ohi, Tatsuo Nishiki, Hikaru Inoue, Kazuo Minami, Seiya Nishizawa, Miwako Tsuji, Naonori Ueda, 152K-computer-node parallel scalable implicit solver for dynamic nonlinear earthquake simulation))
図:地上/地下構造物と地盤を一体でモデル化した稠密都市モデル(上段)を用いた地震シミュレーションを実現。地上の揺れ(下段左)や地下構造物の揺れ(下段右)は、相互作用が考慮された複雑な分布となる。
【概要】
数式のような簡潔な指示を書くだけでスーパーコンピュータでの計算に必要となる高度なプログラムを自動生成できるプログラミング言語「Formura」を開発し、それによる「京」でのシミュレーションが 2016年のゴードン・ベル賞ファイナリストに選ばれた。
【背景】
スーパーコンピュータでの計算に必要となるプログラムはときに数十万行にも及び、作成やチューニングは大変困難になっている。一方で、原理的にはシミュレーションしたい自然現象とその離散化法[2]を指定すれば、プログラムは機械的に生成できるはずである。しかし、プログラミングはシミュレーションとコンピュータ双方に深い知識が必要となる非常に高度な作業であり、多数の計算機を協調して動作させるスーパーコンピュータの性能を引き出す高度なプログラムを、自動かつ汎用的に生成することは不可能だった。
【京による成果】
方程式がプログラムに変換されるまでの一連の段階に対応する数学的定義を作り、スーパーコンピュータが持つ階層のすべての段階において、自然が元来備えている「並列性」と「局所性」[3]を保持する変換を厳密に定めることで、新たなプログラミング言語「Formura」を開発した。これによって、これまで不可能だったプログラミングの機械化に成功した。さらにFormuraは、同じアプリケーションに対して何万通りものプログラムを試し、最も速かったものを自動的に選択する。
【今後の展開】
富岳の他、様々な計算機に対応して効率がよいコードを自動生成できるよう研究を進めている。
図:Formuraで作成したプログラムによってシミュレートされた地下の生態ネットワーク
捕食者(緑)が被捕食者(赤)に対して優勢な領域が大規模なクラスタ(青線)を作ることが示された。縦軸・横軸の単位はミリメートル。先行研究であるPearsonらが1993年に2次元で行ったシミュレーションを3次元に拡張し、同じ振る舞いがおこることを再現して確かめた。解像度が大幅に上がったことで、大規模な捕食者クラスタの成長も観測できている。
(京都大学のプレスリリースより)
【概要】
東大、理研、新潟大、筑波大、RISTのチームによる以下の論文が、SC15においてコンピュータシミュレーション分野で最高の賞であるゴードン・ベル賞のファイナリストに選ばれました。
Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Pher Errol Balde Quinay, Lalith Maddegedara, Muneo Hori, Seizo Tanaka, Yoshihisa Shizawa, Hiroshi Kobayashi, Kazuo Minami, Implicit nonlinear wave simulation with 1.08T DOF and 0.270T unstructured finite elements to enhance comprehensive earthquake simulation, SC15 (https://doi.org/10.1145/2807591.2807674).
【背景】
〇地震被害軽減を考える上で、被害想定の高度化が重要.都市をはじめとしたデジタル空間情報の蓄積に伴い、都市地震シミュレーションの高度化が期待されている。
〇断層破壊過程、地殻内地震動伝播、都市地震シミュレーション、避難過程を一気通貫で解析することが期待されていたが、シミュレーションコストの観点からその実現は難しいとされていた。
【京による成果】
〇超高詳細な10×10km規模の都市モデルを用いて、断層破壊過程、地殻内地震動伝播、都市地震シミュレーション、避難過程の一気通貫シミュレーションを実現。
〇この規模・分解能の一気通貫シミュレーションは世界初。
【今後の展開】
〇地震被害軽減検討のため解析手法創出への貢献。
〇開発手法を拡張し、地震発生の準備過程である地殻変動解析を高度化(高度化された手法は、SC16においてBest Poster Awardを受賞(Kohei Fujita, Tsuyoshi Ichimura, Kentaro Koyama, Masashi Horikoshi, Hikaru Inoue, Larry Meadows, Seizo Tanaka, Muneo Hori, Lalith Maddegeddara, Takane Hori, A Fast Implicit Solver with Low Memory Footprint and High Scalability for Comprehensive Earthquake Simulation System)
〇開発手法により生成される大容量データの活用法の開発(開発された手法は、SC17においてBest Poster Awardを受賞(Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Takuma Yamaguchi, Muneo Hori, Maddegedara Lalith, Naonori Ueda, AI with Super-Computed Data for Monte Carlo Earthquake Hazard Classification))
〇開発手法を拡張し、より高詳細な都市地震シミュレーションを可能な手法を開発(開発された手法は、HPCAsia2018においてBest Paper Awardを受賞(Kohei Fujita, Keisuke Katsushima, Tsuyoshi Ichimura, Masashi Horikoshi, Kengo Nakajima, Muneo Hori, Lalith Maddegedara, Wave Propagation Simulation of Complex Multi-Material Problems with Fast Low-Order Unstructured Finite-Element Meshing and Analysis))
図: 1336億自由度の非線形波動シミュレーションと32万棟の構造物シミュレーションにより実現された超高詳細広域都市地震シミュレーション(上段:全体図、下段左:拡大図)。これを核とした断層破壊過程、地殻内地震動伝播、都市地震シミュレーション、避難過程(下段右)の一気通貫シミュレーションを実現。
【概要】
東大、理研、学振、RISTのチームによる以下の論文が、SC14においてコンピュータシミュレーション分野で最高の賞であるゴードン・ベル賞のファイナリストに選ばれました。
Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Seizo Tanaka, Muneo Hori, Maddegedara Lalith, Yoshihisa Shizawa, Hiroshi Kobayashi, Physics-based urban earthquake simulation enhanced by 10.7 BlnDOF × 30 K time-step unstructured FE non-linear seismic wave simulation, SC14 (https://doi.org/10.1109/SC.2014.7).
【背景】
〇地震被害軽減を考える上で、被害想定の高度化が重要.都市デジタル情報の蓄積に伴い、都市地震シミュレーションの実現が期待されている。
〇しかし、シミュレーションコストの観点から、都市を対象にシミュレーションモデルを生成し、その地震シミュレーションを行うことは難しかった。
【京による成果】
〇現実の都市デジタルデータからシミュレーションモデルを生成し、これを用いた詳細な都市地震シミュレーションを世界で初めて可能とした。
〇都市デジタルデータの曖昧さを考慮するためのモンテカルロシミュレーションもあわせて実行可能とした。
【今後の展開】
〇本論文は都市部の揺れのみを対象としている。シミュレーションの信頼性をより高めるため、断層破壊過程、地殻内地震動伝播、避難過程等のシミュレーションとの融合を目指す。
〇地震被害軽減検討のため解析手法創出への貢献
図:都市モデルを用いた都市地震シミュレーションの例。上段カラーは構造物の揺れ、下段白黒は地盤の揺れを示している。.地盤構造の違い・構造物特性の違いにより、都市全体では複雑な揺れの分布となる。
【概要】
筑波大、理研、東工大の研究グループによる『約2兆個のダークマター粒子の宇宙初期における重力進化の計算』が、コンピュータシミュレーション分野での最高の賞であるゴードン・ベル賞を受賞。日本のグループによるゴードン・ベル賞受賞は2年連続で、今回は筑波大グループの単独受賞。
【背景】
○宇宙の形成過程を明らかにするには、ダークマターの重力進化の解明が不可欠。
○しかし、1兆個以上におよぶダークマター粒子のシミュレーションは計算機の能力が足らず、実施できなかった。
(現在は筑波大グループの他、米国・アルゴンヌ研グループも実施中)
【京による成果】
○世界最大規模である数兆個におよぶダークマター粒子の重力進化を、実用的な時間内にシミュレーションすることを可能とした(5.67ペタフロップスでの計算)。
(→パソコン1台で数百年かかる計算が、「京」により3日で実現)
○宇宙初期(約137億年前の宇宙誕生から約200万年後~約1億年後)のダークマターの密度分布を計算(右図参照)
○筑波大グループのアプリケーションは、アルゴンヌ研グループの6倍程効率が良く、アプリケーション開発でも世界をリードしていることが示された。
【今後の展開】
○星や銀河の形成など、宇宙の構造形成過程に関する科学的成果の創出が期待される。
○より微細なダークマター構造を解明でき、ダークマター粒子の探査、正体解明に貢献。
明るさはダークマターの空間密度を表し、明るいところは密度が高い。 また、zは赤方偏移の量を表しており、数値が大きいほど過去を見ている(天文学では時間や距離の尺度として用いられる)。
【上段左】
宇宙誕生時はほぼ一様。z=400は宇宙誕生から約200万年後であり、1辺約5光年。
【上段中】
時間の経過につれて重力により集まり、大きな構造が形成される。
【下段】
下段右は、誕生から約1億年後の宇宙の姿(約136億年前、1辺約65光年)。
中心部を拡大したものが下段中、更に拡大したものが下段左。
(zは全て31)
文部科学省 今後のHPCI計画推進の在り方について(中間報告)平成25年6月25日 より
【概要】
理研、筑波大、東大、富士通のチームによる『「京によるシリコン・ナノワイヤの第一原理計算』が、コンピュータシミュレーション分野で最高の賞であるゴードン・ベル賞の最高性能賞を受賞。日本人によるこの受賞は2004年以来7年ぶりの快挙。
【背景】
○22nm以下の微細構造をもつ次世代半導体において、漏れ電流による消費電力の解決が課題。このため、シリコン・ナノワイヤが次世代半導体の材料として期待されているが、その実現には、ナノワイヤ内の原子・電子の解析が不可欠。
○しかし、このような微細材料での実験はできず、また、シミュレーションでは計算機の能力不足から、2,000原子程度(ごく一部分)までしか計算できなかった。
【京による成果】
○現実の材料サイズに近い10万原子規模のナノワイヤの電子状態の計算し、世界で初めてナノレベルの高精度シミュレーションを可能にした(3ペタフロップスでの計算)。
(→従来のシステムでは30年以上かかる計算が、「京」により1週間で実施可能に)
【今後の展開】
○22nm以下の微細構造を持つ次世代半導体の製造方法の確立
○高速・高機能、省エネルギーなどの特長をもつ新しいデバイスの設計に貢献
【概要】
東京工業大学学術国際情報センター (GSIC) の青木尊之教授らのグループが、今年度のスパコンの実用問題に対する計算で 2.0ペタフロップス(単精度)を達成し、米国シアトル市で開催されているスーパーコンピュータの世界最大の国際学会 "ACM/IEEE Supercomputing 2011 (SC11)" にてゴードン・ベル賞・特別賞を受賞しました。
【背景】
計算内容は合金の凝固過程において形成されるデンドライト(樹枝状結晶)をフェーズフィールド法※2という理論で計算するもので、軽量高強度な新材料の開発などに大きく貢献すると期待されています。
【HPCによる成果】
空間を格子状に分割し、その格子点上で非線形な方程式を有限差分法で解く(格子法またはステンシル計算と呼ばれる)計算手法を用いています。これまで格子法はプロセッサのピーク性能に対して高い実行性能(フロップス値)を引き出すことが難しいと言われてきましたが、青木教授のグループはピーク性能2.4ペタプロップス(倍精度)/4.8ペタプロップス相当(単精度)のGPU※3を大量に導入した学術国際情報センターのスパコンTSUBAME2.0において、極めて高い実行性能(ピーク性能に対して44.5%)を達成しました。